新しい価値観を受け入れることが人生を変える

新しい価値観を受け入れることが人生を変える

誰もが得意そうで、まったく理解してないこと。それは「自信をもつ」という事ではないでしょうか。
とりわけ若いうちは不安で、訳が分からない、こうしろと言われても、即座に理解できず、ぐずぐず迷っている人が大半だと思います。

本作の主人公であるヴァルターも、真面目で、人並み外れた行動力がある以外は、ごくごく普通の凡人です。卓越した才能があるわけでもなければ、周りが仰ぎ見るようなキャリアがあるわけでもない、どちらかといえば、世間ずれした、お坊ちゃんタイプです。おまけに、大会社に意匠の盗用で訴えられたり、リストラで解雇されたり、やることなすこと裏目に出て、故郷の仲間とも今ひとつわかり合えません。

それだけに、海洋都市の未来を変えるような素晴らしいアイデアを有していても、それが本当に役に立つとは思えず、「恥ずかしいから」という理由だけで、ずっと心の奥底に秘めています。ある出来事がきっかけで、アイデアを覗き見してしまったアルは、どうにか彼の口からアイデアを引き出し、その気にさせようとしますが、コンプレックスの塊で、自信のないヴァルターは、どこか逃げ腰で、本気になることを恐れています。

「できる」と「できない」の違いはたった一つ、自分を信じるか、否かなのに、自信のない彼は、アイデアも実力も生かし切れずにいます。

そんな彼に、上司として、また未来の義父として、最後の助言をするのが、この場面です。

反発で始まった関係ですが、誰よりも彼の可能性を信じているのは、アル自身なのです。

このパートは海洋小説『曙光』(Kindle版)の抜粋です。
詳しくは作品詳細をご参照下さい。

新しい価値観を受け入れることが人生を変える

※ 久しぶりにアル・マクダエルと再会し、将来について語り合う

「悪気がないのは分かってる。ただ、いろいろ不安だった。分からないことだらけで、自分の考えにも自信が持てなくて」

「わしに聞かなくても、既にお前には分かっているはずだ。不安というなら、誰もが不安だ。わしでさえ、大事を前にすれば心が揺らぐことがある。人に尋ねたところで、百パーセント正しい答えが返ってくるわけでなし。真っ当な答えを得たところで、全てが上手く行くとも限らない。本当にこれで良かったのか、多分、死の前日まで自問自答し続ける。大事なのは行動することだ。正しい考えも、行動しなければ、ただの夢想に過ぎない。そして、お前には行動力がある。考える力も、豊かな感性も。正答が見えなくても、何かが心に訪れたら、迷わずやってみるといい。お前なら無茶はしない。そうだろう?」

「それは分かるが、もし間違いだったら自分も周りも不幸にする。中には取り返しのつかない過ちもあるだろう。俺はあんたみたいに利口じゃないし、キャリアも資本もない。それが分かるから、時々、決断するのが恐ろしくなる。何かとてつもない渦に巻き込まれそうな気がして」

己の無知を自覚することは未熟とは言わない。物事に慎重なのも同様だ。本当に未熟な人間は、自分の愚について考えもしない。物事が思うように運ばないのを、ただ不思議がるだけだ。何をそんなに迷うことがある? 海洋情報ネットワークも、深海調査の実況も、誰に指示されなくても、あそこまで出来たじゃないか。後は腰を据えて掛かるだけだ。地に足を着けて、責任を負う身になれば、何が正解だの、間違いだのと言っておれなくなる

「オキタ社長が言っていた。お前は新しい価値観を恐れているだけだと

「新しい価値観?」

「そうだ。目の前に、今まで考えもしなかった生き方や価値観が開けている。これこそ我が運命と直感しても、今までとはあまりに違いすぎて、どう受け止めていいのか分からなくなるんだ。そういう時は、今まで無意味だ、無価値だと決めつけてきた事への見方を改め、別の可能性について考えてみる。あるいは、大事だ、不可欠だと抱え込んできたものを、思い切って手放してみる。一口に言えば、頭の切り替えだ。同じ考えに留まっても、新たな道筋は見えてこない

「同じことをエヴァにも言われた。幸せになるということは、新しい考え方を受け入れることだと」

「その通りだ。事業だって、時には思いきった改革をやる。先代の時は通じても、現代の事情には全くそぐわない業務もあるからだ。そんな時に、かちこちの頭で旧来のやり方にしがみついても、無駄な出費がかさんで、社員もやる気をなくすだけだろう。時には他人の助言に従い、否定的に見てきた事にもチャレンジする。自分ではこんなサービスは無駄だと感じても、若い者から見れば、今はこれがトレンドですよ、という事もある。日々勉強、日々反省、毎日がノートの書き換えだ。心と頭が膠着していては、再起や成長の機会も逃してしまう。新しい価値観を受け入れることは、これまで培ってきたノウハウを白紙に戻し、プライドを傷つけることもあるが、それを消化することで新しい扉も開く。信念を固持するのも大事だが、ここぞという時に方向転換できる勇気や柔軟性も同じぐらい大事だぞ

分からないで済まさず、とことん考えろ

※ 上述の続き

「いい方法があるのか?」

「海を干拓するんだ。ダムで仕切って、内部の海水をドライアップする」

「それは河口や内湾を埋め立てるのかね」

「そうじゃない。直径十五キロメートルの円環の二重ダムで仕切るんだ。地盤が強固で、浅海であれば、海岸から離れた沖合でも作れる。高さ数十メートルの鋼製ケーソンを約四八〇個、連続的に建造する能力と、これを海底に固定する技術があれば、数十万人が暮らす用地を一気に創出できる」

「だが、それほどの規模なら建設費も数兆エルクは下らないだろう。それはどうやって工面するね? 必要な人材は? 設備は? 高さ数十メートルの鋼製ケーソンを四八〇個も建造するなら、膨大な鋼材が必要だぞ。それはどこから入手する?」  

「そこまでは……」

『分からない』で済まさず、とことん考えてはどうだ。わしだって、採鉱プラットフォームの構想を描き始めた頃は全くの白紙だった。いくらMIGという後ろ盾があっても、数十億の資金を一夜で調達できるわけじゃなし、産業省の許可を得るにも何十もの手続きを必要とする。人材も然りだ。プラットフォームの設計図も、自分では一枚も描けないし、油圧うんぬんと言われても解らぬこともある。それでも成そう、成さねばならぬ、その気迫で考え抜いた。もちろん、わし一人の実力ではない。ダナも知力の限りを尽くしたし、両親も資金繰りや政治面で粉骨してくれた。それ以外にも手助けしてくれた者は大勢いる。それはさながら、真っ白なキャンバスに一本、一本、線を引き、鉄材を組み上げるが如くだった。最初からお膳立てされた新規事業など有りはしない。個人、大企業に関わらず、新規に事を成そうとする者は、すべからく同じ辛苦を味わう。成否を決める要素は様々だが、全てに共通するのは粘り強さだ。考えて、考えて、考え抜いて、様々な障壁を乗り越えた者だけが目標を達成することができる。最初から腰砕けでは、どんな優れたアイデアを日の目を見ることはない」

「突飛で、非現実的なアイデアでも?」

「だから、まずは実現への道を模索するんだよ。その為の勉強であり、人脈だ」

「模索……」

「そうだ。どんな小さな商品も、最初は企画を立てるところから始まる。その途中で不可能と分かれば、机上で撤回すればいいだけの話だ。その為に勉強したことは決して無駄にはならない。何年、何十年経ってから、何かで役立つ日も来る」

「確かに、机上で考える分は無料(タダ)だね」

自分を信じろ。自分で信じられないものを、誰が信じてくれる? 自身のアイデアの価値を見出すのも自分なら、形にするのも自分自身だ。誰かが代わりにやってくれるわけでは断じてない。そして、ひと度、生涯のテーマと定めたら、ぶれず、迷わず、やり通せ。日々積み上げれば、必要な技術や資金は必ず後から付いてくる。一に信念、二に気概、そこに知恵や人徳や行動力が備わって、初めて大事を成す機運が開ける」

Product Notes

デザインとは精神の具象 アイデアの対極は『無』にも書いていますが、どんな建築パースも興味深いものです。この動画に紹介されている「11の未来都市のデザイン」も、到底実作できそうにありませんが、多くの示唆に富んでいます。大切なのは、何をどのように考え、どう形に表すか、そこに「こうあるべき」という制約はありません。私たちは自由な観念の中で、何をどう表現してもいいし、どんな可能性を夢見てもいいのです。

しかし、どれほど優れたアイデアも、絵に描いて、提示しないことには始まりません。

恥ずかしいから、自信がないから、と、ずっと胸の中にもっていても、何の意味もないのです。

アイデアや思想を表明することは、時に嘲笑や批判の的となるかもしれませんが、それでも私たちは挑まねばなりません。

なぜなら、それが生きた証であり、意思もった人間である所以だからです。

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下巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

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