鉱業権と鉱山会社の寡占 新しい採鉱システムが世界を変える

鉱業権と鉱山会社の寡占 新しい採鉱システムが世界を変える

現実に鉱物資源を採掘するにあたって、一番問題になるのは『鉱業権』でしょう。

鉱業権の仕組みは国それぞれに大きく異なり、日本のように先願主義の国もあれば、鉱区の所有者である国から譲り受ける、リース権という仕組みが布かれている国もあります。

また、一度鉱業権を取得したからといって、永久に自社のもの、といういわけでもありません。

鉱業権には数年から数十年の期限が定められており、「探査ライセンス」「生産ライセンス」と内容によって権利も分類されています。

また、権利の取得には、資本、技術、実績なども大きく問われ、一度、権利を取得したからといって、実際に何の操業も行われなかったり、申請内容と全く異なっていたり、経済的に行き詰まるような問題があれば、鉱業権も停止されます。

一方、鉱業権を認可する側にも問題はあり、紛争地帯のように、まともな行政が機能してない場合は、賄賂が横行したり、一部の思惑で鉱業法が変えられたり、必ずしも公正に管理されているとは限りません。

本作では、鉱業権を抱き込んで、邪魔者を徹底的に排除する大企業の横暴が描かれています。

もちろんフィクションですから、デフォルメもありますが、あながち創作ともいえない部分があり、そうした噂は、石油、ダイヤモンド、天然ガスなどで聞き及んでいる方もあるでしょう。

ここでも腐敗の構造を変えるのは海底鉱物資源という新たなリソースであり、海上プラットフォームという完全自動化された採鉱システムです。

何故そうまで海底鉱物資源の採掘に拘るのか……という理由は、全編を通して繰り返し説明しています。

このパートは海洋小説『曙光』(Kindle版)の抜粋です。
詳しくは作品詳細をご参照下さい。

概要

マードックから採鉱システムの設計図を受け取ったヴァルターは、プリントアウトする為に総務部に足を運ぶ。マードック夫人のカリーナは彼を手伝いながら、現行の鉱業法や、ニムロディウムをめぐる鉱業寡占の暗黒史について語って聞かせるが、逆に彼は対抗策を思い付き、海洋情報ネットワークの構想を口にする。カリーナは「理事長に話すべき」と勧めるが、これ以上関わりを持ちたくないヴァルターは逃げるようにその場を後にする。

抜粋

鉱業権:腐敗した業界に風穴を開ける

※ ヴァルターは海底鉱物資源の採鉱事業の命運を握る鉱業権について、総務部長のカリーナから説明を受ける。

彼はふとステラマリスの排他的経済水域のことを思い出し、「ローレンシア海域の鉱業権はどうなっているんです?」とミセス・マードックに質問した。

「トリヴィアの資源探査規制法に基づいてるわ」
夫人は黒い丸眼鏡の縁を指先で押し上げた。
「アステリアはトリヴィアの属領(dependency(ディペンデンシー))なの。部分的に自治権を与えられたトリヴィアの『特別経済開発区』なのよ。地方都市との大きな違いは選挙が無いこと。区政の最高意思決定機関は十二人の管理委員で構成され、彼らは全てトリヴィア政府に任命された行政官という点よ」

「じゃあ、アステリアの産業活動や区民の社会生活もトリヴィアの法律に基づいているわけですね」

「そういうこと。そして、アステリアの鉱物資源は全てトリヴィア政府の資産であり、企業はトリヴィア政府から鉱業権を借り受ける形で探鉱や採掘を行うの」

「それならセス・ブライト専務から聞きました。ティターン海台の鉱業権は『リース権』で、営業利益率に応じて二〇パーセントから二十五パーセントのロイヤリティを支払うそうですね」

「形態としてはそうね。ただ、アステリアに関しては、本格的な鉱業活動はMIGが初めてだから、ネンブロットに比べたら審査基準も曖昧で、政府も進捗を見ながらルールを書き換えるような感じよ。それがMIGにとって有利に働くこともあれば、不利な条件を突きつけられることもある。その度にマクダエル理事長が鉱業局に直談判して、どうにかこうにか現在に至る、よ」

「鉱業権の期限はどれくらいです?」

「探鉱ライセンス──いわゆる排他的探鉱権は五年間。申請すれば五年まで延長可能。準備期間に相当するリテンション・ライセンス(活動継続権)も五年で、こちらも五年の延長が可能だけど、アステリアの海洋資源に限り、さらに五年の延長が認められているわ。トータルすれば、最長十五年間、権利の保有が認められる訳ね。さらに資源の採掘から販売までカバーする生産権は二〇年。これも五年ごとに延長が可能で、最大十年の延長期間が認められているわ。トータルすれば、最長三〇年、生産可能よ」

「じゃあ、今後三十年間は安泰というわけですね」

「厳密には、UST歴二二九年九月までよ。生産権は昨年九月に取得してるから。だけども、二一九年にはいったん権利を喪失するから、その後はどうなるか分からないわ」

「どうして?」

「ライセンスが延長されない恐れもあるからよ」

「ここまで開発が進んだものを無視するんですか」

「それがトリヴィアという所よ」

鉱業の腐敗と法の盲点

※ 上述の続き

「なぜ、そこまで一局に集中したんです?」

「Anno Domini(西暦)に制定された国際宇宙開発法『宇宙の領土はいかなる国家にも属さない』という古びた一文が、逆に巨大資本グループに有利に働いたからよ。本来、平和や協力を目的とした『超国家的』の前提が、彼らに都合のいい無政府状態を生み出したの。問題が可視化した時には司法機関でさえ抑えが効かないほど肥大し、今でも根っこの部分は変わってないわ。国や民族にとらわれない『自治領』というスタイルが理想の新社会という人もあるけれど、差別や格差は依然としてあるし、巨大資本のよる支配と従属は何も変わってないのよ」

「それなら、ファルコン・グループのMIGに対する怨恨も深いでしょうね」

「怨恨というより脅威でしょう。技術特許の数でも、社会的信用においても、ファルコン・グループは何一つ敵わない。大きいのは資本と政治力だけ。大衆がどちらを支持するか、言わずもがなでしょう。そして今度は、海台クラストの採掘という従来の鉱業の概念までも覆すようなシステムを完成しつつある。いくら資本や政治力で勝っても、世間もいつまでも物言わぬ子羊じゃなし、海のニムロディウムが市場に出回り、ニムロデ鉱山に対する絶対的な依存が崩れたら、今度こそファルコン・グループにとどめを刺すでしょうね。それだけに彼らもネガティブ・キャンペーンに必死。たとえ本採鉱が軌道にのっても、あの手この手で潰しにかかると思うわ」

「でも鉱業権に守られているでしょう」

「今のところはね。でも、十年先、二十年先は分からない。ネンブロットに限らず、さしたる理由もなく鉱業権を停止される事例は数多くあるから。鉱山会社と政府が十数年も係争して、結局、会社の方が泣き寝入りすることも珍しくない。私の父も長年陶器やガラス製品の原料をネンブロットから輸入してるけど、いつ細則が変わって業務に支障をきたすか分からないくらい。トリヴィア鉱業局もそこまで腐ってないと信じたいけどね」

腐敗を打破する情報共有ネットワーク

※ 上述の続き。ファルコン・マイニング社と鉱業局の圧力を恐れるカリーナに、ヴァルターは情報共有による産業の振興を提案する。

「それなら逆に、鉱業の場としてアステリアの強みを前面に打ち出せばどうです?」

「どういうこと」

「世界中の鉱山会社にとって魅力的な生産地なれば、後に続くものがきっと現れるはずです。アステリアの海底鉱物資源がネンブロットに匹敵するような財源になれば、トリヴィア政府もむやみに鉱業権を差し止めるようなことはしないでしょう。むしろMIGをモデルに採鉱事業を推進するはずです」

「それはそうだけど、MIGとしては真似されたら困る部分もあるわ」

技術はそう簡単に真似できませんよ。採鉱システムやマッピングの核の部分は特許を申請して、知的財産として保護されていると聞いています。たとえアステリアの海底に鉱物資源が無尽蔵に眠っていても、何所に、どれだけ賦存しているか、確実に把握しなければ、採鉱システムだけを真似ても意味が無いし、水深数千メートルの堆積物の状態を把握するには非常に高度な技術と経験が必要です。今から他の鉱山会社が真似ても、採掘マップを作成するだけでも、十年、二十年とかかるでしょう。他社の技術がどの程度か知りませんが、一隻の調査船を出すにも、高度な造船技術、訓練された航海士、水中機器のオペレーションや通信技術に長けたエンジニア、司厨士など、何十人というスタッフが必要です。航海には海図が必須ですが、その海図も、優れた調査技術がなければ水深一つ正確に計測することは出来ません。その上、アステリアの海水の成分はステラマリスとは異なります。東洋の造船会社からタンカーを買い付けて、アステリアの海に浮かべても、数年と経たないうちに金属腐食でボロボロになるでしょう。その点、プラットフォームの補給船の塗装に使われているコーティングは見事なものです。建造して十年という割には船体にほとんど傷みがないので、乗務員に理由を聞いてみたら、化学プラントの溶射加工で実績のある『ネオプラズマ』の特別化合のスプレー剤を使っているそうですね。そんな些細な事でも、事業を支える礎になる。現地で十年、二十年の積み重ねがあればこそ活かせる技術です。MIGが上手くやってるからといって、誰もが簡単に真似できるわけではないですよ」

「じゃあ、あなたならMIGの権益を守る為にどんな方策を取るの?」

「俺ならむしろオープンにいきます」

「どんな風に?」

誰でも気軽にアステリアの海にアクセスできるようにする

「それは直行便を増やすということ?」

そうではなく、情報の観点からです。俺もここに来る前、アステリアの海のことを詳しく調べようとしたのですが、海上安全局という公的機関が波高や潮流や水温に関する汎用データを提供しているだけで、これといった情報サービスが存在しません。アステリアに何があるのか、どんな企業がどんな事業を提供しているのか、まったくといっていいほど見えてこない。六週間後には世界の構図を変える海底鉱物資源の本採鉱が始まるにもかかわらず、です。こんな状況では、手練れの者がせめぎ合うだけで、本当の意味で自由競争や活性化には結びつきません。そうではなく、現在までに知り得た情報や知識を誰でも利用可能なオープンデータベースとして提供し、各方面にアステリアの海の可能性を示すことが、回り回ってMIGの為にもなるのではないですか

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Product Notes

どこの国も、鉱業には暗い噂がつきまといます。

こちらは、鉱業がいかにオーストラリアを形作ったか、というドキュメンタリーの予告版です。

こちらは、世界的に有名な採鉱現場。文明社会は、地球表面にボコボコに孔をあけるシロアリのよう。
我々の近代的な生活が物質を必要とする限り、鉱業も終わりません。
地球の鉱物を取り尽くしたら、次は宇宙です。ほんとに。

オーストラリアといえばオパール。あの美しい宝石がどこから来るか、驚愕の採掘現場です。
本作に登場するフランシス・メイヤーは、オパールをはじめとする宝石ビジネスでトリヴィア政府やファルコン・グループと繋がりを持ちます。
後妻が世界的な宝石商の娘、という設定です。

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上巻の冒頭部を収録した無料版PDFはGoogle Driveにあります。
閲覧は無料です。モバイルでも表示可能。

https://drive.google.com/file/d/0B-RKK97iKB34ajR0YVJGREhfeE0/view?usp=sharing

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