それでも幸福は金で買える『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

2017年11月29日映画

「人生の良し悪しは金銭で決まらない」という言葉がある。「幸福は金では買えない」と。

だが、現実的な話、幸福の8割はお金で買える。

住まいも、ご飯も、名誉も、学歴も、健康さえも、お金があれば、並より上等なものを手に入れることができる。

お金は関係ないと言い切れる人は、相当に恵まれた人だ。

人間、いよいよ蓄えが尽き、明日をも知れぬ身となれば、世の中、金が全てと実感するようになる。

ドストエフスキーの『罪と罰』で、「洗うがごときの赤貧となると、これはもはや犯罪ですよ」という言葉があるが、実際、お金が無ければ心も荒むし、礼節や思いやりにも欠けるようになる。自分の事に精一杯で、夢も希望もなくて。

マーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は、お金の光と影、両面を描いた映画だ。

moneyという単語はマモン (Mammon) からきていると言われるが、それが持ち主に幸福をもたらすか、破滅をもたらすかは、本人の器による。

映画の主人公、ジョーダン・ベルフォートは実在のブローカー。株式仲介会社『ストラットン・オークモント』を興して、相場操縦や詐欺行為で巨万の富を得るが、FBIに逮捕され、有罪判決を受ける。

彼に株屋の心得を教えたのは、上司のマーク・ハンナだ。

ウォール街が一望できるスカイレストランで、『株』の本質を語る。

客に財布から金を出させ 自分の財布に入れる

株屋の第一のルール
たとえ君が投資家のバフェットでも
株が上がるか下がるかぐるぐる回るか分からない
我々にもだ
バッタもんだ わかるか
幻だ 存在しない 
物質じゃない
元素表にも載らない まったくの幻だ

我々はくそも何も作らない

1株8ドルで買った客がいる
それが16ドルになる
客は喜んで金に換えて家に持ち帰りたい
それはさせるな 現実になる
どうする? もっと名案がある
素晴らしい案だ ほかの株を買わせる
儲けにプラスアルファで再投資 それを繰り返す
中毒症状だ
それを何度も何度も何度も繰り返す
そうして 彼は金持ちになったと思う 紙の上で
だが我々には現金が入る 手数料としてだ

つまり、客が株で2倍の儲けを手にしても、それを現金化させてはならない。さらに株を買わせ、延々と取引を繰り返す。客は書類上では金持ちだが、『株』には実体がない。それに対して、株屋は取引される度に確実に現金が手に入る。だから、書類上のマネーゲームに溺れさせ、客の財布から金を引き出せ、というのがハンナの教えである。

現代のマネーゲームの本質を掴んだジョーダン・ベルフォードは、楽して儲けたい馬鹿な金持ちに二束三文のクズ株を売りつけることを思いつき、得意のセールストークでどんどん売り上げを伸ばしていく。やがて彼は自身の株式仲介会社『ストラットン・オークモント』を設立、欲望が飛び交う狂乱の日々を過ごす。

だが、儲けすぎれば監査機関が黙っていないのはアメリカも同じだ。FBI捜査官のパトリック・デナムはジョーダン・ベルフォードの金の流れに目を付け、捜査を開始する。

ある時、ジョーダンはパトリックを豪華クルーザーに招き、こんな質問をする。

「あなたはブローカーの資格試験を受けたことがあるか? ウォール街で働きたいと思ったことは? そうでなければ、人生どうなってたと思う?」

それに対して、FBI捜査官のパトリックは「汗まみれで地下鉄で家に帰り、三日間、同じスーツを着て……」と平凡な我が人生を語る。一所懸命に働いても、年収はせいぜい5万ドルか6万ドル、豪華クルーザーなど夢のまた夢だ。

そんなパトリックにジョーダンは言う。

だが、腹が立つ。国を支えているのは、あんたみたいな人だ。消防士や先生やFBI。
それが経済的に恵まれないなんて 頭にくる
ウォール街のいい所は そういう人に報いられるチャンスを与えて人々にお返しができる

チャンスは大切だ

以前、ある若者がいた
環境科学を学んでいたが 学生ローンに苦しんで さらに母親が心臓の手術 
最悪の環境だ
我々は彼に いい株を薦めた
正しい情報も
一晩で人生が変わった
母親を最高の病院に入れた 残念だが母親は死んだ
だがチャンスは与えた
いいチームを作れば一晩で世界は変わる

一回の取引で50万ドルが簡単に手に入る株の世界。真面目にコツコツ働いているのが馬鹿みたいな現実だ。だが、その50万ドルでどん底を抜け出し、幸福を掴む者もいる。ジョーダンのやっている事は悪質極まりないが、一方で確実に人を救っている。困窮した若者を救うには金が一番効果的で、励ましたり慰めたりしたところで、学費が払えるわけではないからだ。

もう一つ事例がある。ジョーダンは困窮したシングルマザーに希望額の五倍の値の小切手を与え、裕福な人生をもたらした。

キミーを知ってるな
キミーは当社の立ち上げメンバー20人の一人だ
皆 御存知のキミーは美しく洗練された女性だ
3000ドルのアルマーニのスーツを着て ベンツの新車に乗り
冬はバハマ 夏はハンプトンズで過ごす

昔は違ってた 当時は小銭も持ってなかった
8才の息子を抱えたシングルマザー
家賃は三ヶ月の滞納

仕事を求めてきたとき
5000ドルの前借りをしたいと
息子の授業料だ

おれはどうした? 話せ

”2万5千ドルの小切手を書いてくれた”

『家なき子』という連続ドラマで、安達祐実の決め台詞だった「同情するならお金をちょうだい」は全くその通りで、困窮したシングルマザーの肩を優しく抱いても現実には救われない。同情よりも何よりも、2万5千ドルの小切手が全てを解決する。ジョーダンの前では道義も善徳も色褪せる。(もちろん、彼らが大金を稼いだ陰で、大勢がクズ株を掴まされて泣いているのだが。それを自業自得と見るかどうかは、アナタ次第)

捜査は順調に進み、ついにジョーダンを追い詰めるが、パトリック捜査官の表情は冴えない。目に映るのは、くたびれた顔で地下鉄に揺られる庶民の姿。どう頑張っても年収数万ドルしか手にできない、真面目で善良な人たちだ。そして、いつか老いて死んでいく。ジョーダンやその仲間が詐欺で稼いだ富の十分の一の恩恵も得ることなく。だが、この人たちだって、ジョーダンと同じ事をして、数百万ドルを手にすれば、一夜で人生が変わるのだ。こんなくたびれた姿ではなく、颯爽と高級スーツに身を包み、ディナーやクルージングを楽しみながら。

ジョーダンは実刑判決を受けるが、捜査に協力した見返りに、刑期は大幅に短縮。釈放後は自伝の執筆やマーケティングの講演で大きな収入を得るが、詐欺被害者への賠償は完済しておらず、今なお監視下にある。

ラストシーン、講演に訪れた人々に『俺にこのペンを売ってみろ』とマーケティングの秘訣を説くのが印象的だ。多くの人は商品の説明に終始するが、正解は『需要を生み出すこと』。いくら商品の特長を力説しても、需要のないところに供給は生まれない。「製品が優れていること」と「客が求めること」は全く別問題なのだ。

ジョーダンの詐欺的セールストークは作品の前半で披露されるが、真面目で善良な人間には絶対に真似できない。

それでもあなたは大金を得る為にペロリと嘘を口にしますか。それとも善良に徹して、一生貧乏に終わりますか。

残酷だが、それがこの社会の現実だということをまざまざと見せつけるのが、この作品の醍醐味である。

講演会に訪れた人々。大半は「善良だが貧乏」に終わるだろう。そして、ジョーダンの言う通り、社会を支えているのは、こうした「金はないけど善良な人々」なのだ。
それでも大金があれば、一夜で人生が変わる。良くも悪くも、全てが一変するだろう。お金というのは本当に悪魔であり天使。

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3時間の大作だが、時間を感じさせない。テンポもよく、怒濤の詐欺トークと乱痴気騒ぎで前半が過ぎる。性描写が過激なので、敏感な人は閲覧注意。